ポートレートの撮影に明るい単焦点を選んで見る

撮影の仕事を受注したので

 普段はお金を頂いて写真を撮る事はほとんどありません。それでも過去には雑誌の企画だったり・冠婚葬祭・演奏会・イベントの記録など、カメラを使って仕事をする機会が何度か有りました。今回は本業の延長でポートレートフォトの以来が舞い込んだので、兼ねてより使ってみたかった単焦点レンズ をレンタルして仕事に臨んでみました。

古くなったものの美しい写りは健在

 Nikonの85mmには名玉と名高い AI AF Nikkor 85mm f/1.4D IF が長らく君臨してきました。2010年に登場した AF-S NIKKOR 85mm f/1.4G がその座を引き継ぎ、更に二年後 AF-S NIKKOR 85mm f/1.8G が登場します。今回手配したのは後者の方。

皆既月食と天王星食

リーズナブルながら堅実な作りと性能。レンズ構成もf/1.4Gに比べ、より強くf/1.4D IFの影響を受けている様に感じるます。望遠ズームレンズの頂点 70-200mm f/2.8G VRiiの影に隠れて影の薄い存在ですが、サイズ・重量・明るさ・価格のどの面を取っても引けをとりません。明るさに魅入られてしまうと "便利さが霞んでしまう" そんな1本です。

仕事中、2mの距離で被写体の上半身をキレイに収める事が出来ました。明るいレンズだけに2絞りしても余裕が有り、その分 線やボケに優雅さが生まれます。特に女性の肌や髪の柔らかい様が美しく捉えられるのが良いですね。室内で明るさに難があり配置できる機材にも制限があったため、標準ズームで仕事をするのに比べてアドバンテージが稼げたと感じました。何よりファインダー越しの視界が気持ち良い。魅せるレンズに共通する事ですが、シャッターを切る前から仕上がりを期待させる光を取り込むんです。このレンズはリーズナブルながら、そんな資質を持ち合わせた存在でした。

返却前に85mmと戯れる

 機材を返すまでに多少余裕が在ったため、都内を連れ立って歩いてみました。使い慣れた 35mmや50mmは手の届く範囲を捉えるレンズです。対して85mmは "手の届かない距離を身近に感じさせる" 視野を持った存在。望遠レンズと言われると身構えてしまいがちですが、意外と身近で等身大な焦点距離を持ち合わせていたりします。

光学設計で優れる単焦点は些細な光も効率よく収集し "影の中にある影" や "遠くの光が反射する様" など、小さな変化をも逃す事がありません。それらは何でも無いはずの風景に、人の目では追いきれない価値を負荷してくれます。

色々な柵に囚われず、自動で良い仕事をしてくれる優等生タイプの道具だと感じました。単焦点と言う事も相まって、撮る側はファインダー越しの興味に集中するだけで済みます。長く待つも良し、一瞬を切り取るも良し、逆光も暗闇も雑踏も静寂も肉眼では捉えきれない情報を保って応えてくれます。なんとなくシャッターを切った時でさえ "気付きますか? こんなにも鮮やかですよ" と教えてくれます。性能に見合う様導かれる類の道具ではないでしょうか。